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滋賀総合研究所 滋賀の経済と社会」 No.109 ( 2004年1月1日発行 )  12 〜 17 ページ

古都京都からはじまるネットワークの輪 〜公衆無線インターネット接続プロジェクト・「みあこネット」の取り組み〜
滋賀の経済と社会編集部

 光ファイバーやADSLなどによるインターネット接続を行なうユーザーが間もなく1000万回線に達しようとしています。家庭や職場などで高速回線による接続が普及していくなかで、さまざまな事業者が屋外などでも自由にインターネットに接続する環境を作り出しています。公衆無線LANサービスと言えば、NTTが行なうフレッツスポット、ヤフーが行なうヤフーBBモバイルなどが有名です。これは、使用者が費用負担を行ない、設置者は通信事業者から設置費用を受け取る仕組みです。しかし、今回取材をさせていただいた「みあこネット」は、基地局を設置する基地局オーナーが費用を負担し、使用者は無料でインターネットを利用できる仕組みを作り、誰もが情報へ自由にアクセスできる社会を実現しようとするプロジェクトです。今回はこのプロジェクトを企画・運営する特定非営利活動法人日本サスティナブル・コミュニティ・センターの代表理事高木治夫氏(以下、高木代表)と、担当者の田阪裕章氏にお話しを伺いました。


  SCCJの設立のきっかけ

町家がオフィスです(事務局の写真) 特定非営利活動法人「日本サスティナブル・コミュニティ・センター」(以下、SCCJ)は、1998年に高齢者の社会支援を考えるパソコンオーナーと、視覚障がい者の就労・情報化支援に取り組んでいた企業オーナーが出会ったことに始まりました。2人は高齢者と障がい者をインターネットと結びつける接点を見い出し、インターネットを活用してアイデアや情報を発信したところ、全国から多くの賛同者が集まるようになりました。これが、現在のSCCJの始まりです。さらに、メーリングリストなどを活用し、新しい価値観や社会モデルを作ろうとしたメンバーによって情報の提供や交換により、活動基盤が拡大していきました。なお、SCCJの設立時に大きな役割を果した「研究会事業」からは、今回取り上げる「みあこネット」と、愛きもの株式会社が生まれ、事業化しておられます。


  SCCJの取り組み

 SCCJは、コミュニティの情報化推進による、21世紀の人材育成、社会性のあるビジネスインキュベーション、緩やかな雇用の創出により循環型コミュニティの構築を行ない、物心ともに健全で豊かな社会を形成することを目的として、下記のような事業、研究会を行なっています。
研究会事業(産官民学の活発な人材交流)
e音ネット事業(音でひらくアクセシビリティの扉)
コンサルテーション事業(利潤と公共性を追求する社会的起業の支援)
公衆無線インターネット事業(無線インターネットで情報自由都市へ)


  「みあこネット」の誕生と軌跡

お話しを伺った高木代表(左)と田坂氏(右) 「みあこネット」は、2001年11月30日に前述の京都研究会2001「コミュニティベースのIPネットワークによる智の産業集積と雇用の創出」の開催後に行なった議論から始まりました。翌月には名称を「みあこネット」として、第1回推進会議を開催されました。また、財団法人京都高度技術研究所や京都大学と連携してプロジェクトを推進していくことも決定しました。
 2002年4月、京都駅ビルを皮きりにアクセスポイントを開局し、同年5月10日に「みあこネット」として正式にスタートしました。2003年3月には新方式による「みあこネット2」のサービスが開始されたことに伴い、全国での基地局設置が可能となりました。
 実際の運営はSCCJが行ない、技術的な面で京都大学と財団法人京都高度技術研究所などがサポートしています。アクセスポイントは約300、アカウント(登録件数)は6000から7000程度あります(編集部注・各アカウント発行場所で管理しており詳細な数字は分からない)。期間としては、2002年5月から2004年の12月まで行なう予定であり、アクセスポイントは京都のみならず、現在では北海道から沖縄までの全国で展開されています。


  「みあこネット」がもたらす社会

 「みあこネット」は、利用者が、無料で使用できるのが大きな特徴です。
 使用方法も非常に簡単で、パソコンで用いる無線LANカードを用意し、IDとパスワードを、アカウント発行場所で取得することで利用することが可能です。アカウントには、レギュラーとビジターの2種類があり、レギュラーは登録後、期間を問わず使用することが出来ますが、本人確認を行なうのが原則です。ビジターというのは、出張のひとや旅行の人を対象としており、1週間で効力を失効します。レギュラーとの違いは、厳密な本人確認を行なわない点です。アカウントを取得すると、固定IPアドレスを付与されることにより、例えばウイルスに感染し、大量のパケットを送信するなどの事例にも対応することができます。
 また、企業では、出張先や出先から社内のサーバーにVPNという技術を用いて、安全にアクセスすることができます。これにより「どこでもオフィス」の環境を整えることができます。また、ユビキタス・ラジオも聞くことができます(ユビキタスラジオとは、インターネットから入手したニュースなどを、音声で読み上げることなどができるものです。これは言わば、電波のかわりにインターネットを活用したラジオです)。また産経新聞を無料で読むこともできます。b-mobileのユーザはb-mobileのアカウントで「みあこネット」に接続することができます。富士ゼロックスのネットプリントというサービスでは、最寄りのセブンイレブンのコピー機から、あらかじめアップロードしておいたファイルをプリントアウトすることもできます。また病院での電子カルテにも取り組んでおり、例えば、往診先で最新のカルテを取り出し、治療に役立てるというようなことが可能になる予定です。


  将来に向けた活用法の模索

 「みあこネット」は将来に向けた取り組みについて実験を行なっています。
 視覚障がい者を支援する「アクセス・ホットライン・サービス」では、小型カメラ付きの無線端末を持ってもらい、他の場所にいるヘルパーが映像を見ながら、音声でサポートすることが検討されています。また、病院や診療所などでは、電子カルテの導入により往診先や、緊急現場などで電子カルテなどを参照することを検討しています。さらに、地域間コミュニティにおいて、地域住民どうしのコミュニティの場づくりに「みあこ掲示板」や「みあこチャット」などの実験を模索しています。「みあこフォン」の活用により、公衆インターネットとPDAを利用して、無料の携帯電話も作ることが可能となります。また、基地局を高齢者宅に置くことによって、医療に来られた方や、都会で働く子どもらが無線インターネットを活用することにより仕事ができたり、置くことによって、ネットワークが広がることが考えられます。


  高いセキュリティの入り口:どこからでもドア・利用者に安心・安全を提供

 「みあこネット」の利用者が接続すると、認証サーバーに暗号化された通信で認証を受けることになりより、、正当な利用者であれば接続を許可する仕組みになっています。「みあこネット」のユーザーは「無線ルーター」→「仮想専用線」→「みあこネットのサーバー」→「インターネット網」の経路で同時に最大30人が、エンドtoエンドのVPNで利用通信を行なうすることができます。
・基地局設置者に安心・安全を提供
 基地局を設置するうえで、特に企業などで最も懸念されるのがセキュリティーではないでしょうか。WEPなどは、ある程度の知識を持ったユーザーなどに侵入される恐れがあります。しかし、「みあこネット」ではエンドtoエンドのVPNにより、利用者から基地局設置者のネットワークへアクセスされることはありません。
 また、利用者は匿名では利用することはできません。匿名のプリペイド携帯電話で社会問題が起きたようなことを防ぐとともに、基地局設置者が多大な損害賠償を請求されるリスクをなくしているのです。


  全国にひろがる「みあこネット」の輪

 京都以外でも、23都道府県で広がりを見せています(残念ながら滋賀県にはまだありません)。各地に出かけていって営業活動を行なっている訳ではないことを考慮すると、いかに自発的な取り組みが行なわれているかが分かります。他の都道府県の広がりは、WEBなどの検索により「みあこネット」を知り、まちおこしにつなげる取り組みなどに活用される事例などが多いようです。広がりは基地局オーナーの考えしだいであると言えます。
 具体的事例としては、松山の道後温泉のまちなかや、倉敷の美観地区、、富山県の黒部市などで利用できます。また、金沢の片町商店街でも利用することができ、8月16日の五山の送り火を京都インターネットテレビと共同で中継したりしました。
 ただし、今後はインターネットを使える人のみの広がりだけでは、なかなか普及できません。全国的に見てみると、公衆無線LANは、通信事業者によるホテルのロビーや、コーヒーショップやファーストフード店などに普及しています。これは事業者が利用者から料金をとるスタイルですが、現在では無料でおこなっている場合も多いのが現状です。現状では、利用者への利用方法の提案や、普及を行なっているというところだと考えられます。単に基地局を設置するだけで、活用されていなければ意味がありません。ただし、すこし視点を変えると、異なった切り口から間口が広がることが多いと思います。


  「おもてなし」の精神(こころ)

 このプロジェクトが他の事業者が行なう公衆無線インターネットとの最も大きな違いは、利用者は無料で使用することができる一方で、基地局のオーナーが通信費などの費用負担を行なっていることです。基地局のオーナーが様々なところで基地局を設置することで、お客さまにインターネット環境を提供することができるようになります。これは、例えば花やグリーンレンタルなどといった直接的メリットはなくとも、例えば、客間の亭主を「おもてなし」する精神で考えるとわかりやすく、高木代表も
「おもてなしのこころは双方交流です。もてなしのこころ、もてなされるこころが遅かれ早かれのことだけであり、同じですよ」
とおっしゃったのが印象的でした。目先の損得だけで考えてしまうことが多い現代において、こういった考えは逆に必要なのかもしれません。


  企業と顧客の活用方法

 企業においても、「みあこネット」を活用しています。通常、こういった,公衆無線LANの場合はセキュリティーの関係上、自社のサーバーにも入ることはできません。しかし、「みあこネット」の場合、外出先でも各ISP、各企業、各大学のサーバーにVPNで接続することができます。しかも、ある大手企業は自分の取引先にも「みあこネット」の導入を呼びかけているということです。例えば、営業の担当者が取引先で商品などの説明を行なう時、最も大事なのは、最高のプレゼンテーションを行なうことです。人の移動時間、待ち時間をいかに減らし、会議の生産性をいかに上げるかということが重要だと考えられています。


  今後の展望と希望

PDA(PDAの写真)「例えば、講演会などで資料を紙ベースでもらってもしょうがない。パソコンの中に最も新しいデータが入っているのです。また、学校の授業においても、インターネットを使いながら授業で用いることによって、学力が下がっているわけではない。しかも、インターネットを使う、使わないことにより雲泥の差が生まれている。いまの時代にインターネットを活用しないビジネスはありえないと考えている。生活レベルで使う、使わないとはまた次元の違うレベルではある。」と高木代表はおっしゃいました。
 現実の問題として、現代に生きる我々の生活の中には、インターネットやメールなどは、いやおうなく、生活する上でのツールとなりつつあります。例えば、100万部の府民だよりは、音声や大きな文字で読むことができ、バリアフリーの考え方で「いつでもどこでも」のメディアとして、高齢者や障がい者などに住民サービスに使えるようになるでしょう。即時性が高く、ライフライン情報であるとか、自治体のエマージェンシー(緊急)情報をのせてくることができます。そこで住民と自治体を密接な関係に利用することができ、また、操作はひとつのボタンで容易に操作をすることができ、パソコンやインターネットなどを覚えるのではなくて、このような情報を得ることができます。
 このことに関しては、高木理事も「これは視覚障害者の方にいろいろ教えていただいて、このことによりいろいろな人々に利用可能なことがわかった。自治体広報の一番の問題点は即時性が全くないことである。即時性を上げることにより、コストがはねあがり、また新聞社のようにもできるわけではない。インターネットは即時性はあっても、住民全員が使えるわけではない。独居老人や高齢者、障害者を即時性よくサポートするきっかけになっていけば良いと思う。」と話されました。
 今後の展開では、より情報化社会へと移行するものと考えられます。こういった時世のなかで、ビジネスユースとして、また生活ユースとしてインターネットが活用されていくなかで、誰でも使うことができる「ユニバーサルデザイン」を取り入れた形で提供していくことが必要となっていくと考えられます。
(文責・南部 功嗣)


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