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「アメリカ通信 メディア最前線

                               菅谷 明子

 

◆◆菅谷明子 プロフィール◆◆
ジャーナリスト、経済産業研究所(RIETI)研究員

東京大学情報学環「MELL(メディア表現学びとリテラシー)」プロジェクトリーダー

【略歴】

1963年生まれ。コロンビア大学大学院修士課程修了。

米ニュース雑誌「ニューズウイーク」日本版勤務を経て、現職。約6年にわたりニューヨーク、ワシントンDCを拠点にメディア、ジャーナリズム、コミュニケーション・テクノロジーなどをテーマに取材・研究活動を行い、2001年より東京在住。同年より東京大学非常勤講師としてメディア表現やジャーナリズム教育のフィールドに関わるほか、武蔵野美術大学で「メディアリテラシー」を担当。2002年より早稲田大学大学院国際通信研究科非常勤講師。経済産業研究所では、市民社会をエンパワメントするための新しいメディアのあり方についての研究プロジェクトを実践中。また、メディアリテラシーやデジタル時代の図書館などをテーマに講演・ワークショップ・市民講座の講師などをつとめる。

【連絡先】 AkikoSugaya@aol.com

 

 

 

著書

「メディア・リテラシー」(岩波新書) *2001年に韓国版も出版。

2002年夏に新刊「進化する図書館」(仮題:岩波新書)「メディアプラクティス」(共著:せりか書房)が発行予定。

「進化する図書館へ」(共著:ひつじ書房)

「送り手たちの森:メディアリテラシーがもたらす循環性」(共著:日放労文庫)

「Vチップ」(共著:メディア総合研究所)

記事

1999年7月10日【コンピューターが変える調査報道】米新聞界最新リポート(4)

1999年7月 9日【コンピューターが変える調査報道】米新聞界最新リポート(3)
1999年7月 8日【コンピューターが変える調査報道】米新聞界最新リポート(2)
1999年7月 7日【コンピューターが変える調査報道】米新聞界最新リポート(1)

書評

2000年10月22日「メディア・リテラシー」

2000年10月1日「メディア・リテラシイー」先進地の多様な活動を紹介

1999年8月1日月刊「テーミス」編集主幹 伊藤寿男 内奥に切り込む調査報道を

プロフィール

関心分野

メディアと公共空間、メディアリテラシー教育、オルタナティブなメディア表現、コミュニティのコミュニケーションデザイン、インターネットにおける公共圏、情報センターとしての公共図書館、ジャーナリズム、学習環境デザイン

その他の活動

「市民コンピュータ・コミュニケーション研究会」理事

「ビジネス支援図書館推進協議会」副会長

「進化する図書館の会」運営委員

「海外政策ネットワーク(PRANJ)」ポリシープロフェッショナル

CAMP(子供芸術博物館公園)」CAMPER

●書評

 

◆◆「メディア・リテラシー」◆◆

2000年10月22日日本経済新聞23頁掲載記事より

 

 マスメディアは社会に多大な影響を及ぼす。インターネットの時代を迎え、ますますその傾向が強まる。メディアが提供する情報を批判的に読み解くのが、メディア・リテラシーだ。

 米国、カナダ、英国の初等中等教育の現場で今、メディア・リテラシーにどんな取り組みが行われているのかをルポした。メディアを監視する非営利組織(NPO)や、市民のメディア・リテラシーを支援するテレビ局なども紹介している。(岩波新書・660円)

 

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◆◆「メディア・リテラシー」先進地の多様な活動を紹介◆◆                         

2000年10月1日共同通信掲載記事より

 

 メディア・リテラシーとは日本ではまだ耳慣れない言葉だが、メディアを批判的に理解してゆく学習のことだ、と著者はいう。では、その学習とは実際にどんなふうにすすめられているのか、世界を駆けめぐり数年間に及ぶ実地調査の成果をまとめたのが本書である。

 

 メディア・リテラシーの先進例といわれるイギリス、カナダ、アメリカでの多様な活動を生き生きと紹介していることがこの本の最大の魅力だ。

 

 国語教育のなかでメディアや映像のはたらきについて学習させるイギリスの例、カナダの教師たちによる「メディア研究」授業の実際、メディア・リテラシー活動を支援する世界初のカナダのテレビ局の活動、ニュースやCMにたいするアメリカ市民の創意に満ちた監視・批評活動など、出てくるエピソードはどれも新鮮で興味深い。

 

 メディアの批判的理解とは、たんに「俗悪番組」の発見や非難ではない。ニュースやCMの制作を実地に経験することでメディアの提供する情報がどのように組み立てられているか理解する―そんな活動もメディア・リテラシーにはふくまれているからだ。

 

 著者の行き届いた目はそんな活動全体をバランスよくとらえ、「テレビの見方が変わった」といった子どもたちの反応をよくつたえている。ときには自らも飛び入りで学習活動に参加し、現場の取材をじっくりつみ重ねてきた成果だろう。

 

 残念ながら、日本ではまだ、メディア・リテラシーの意義や役割がよく理解されていない。「FCT市民のメディア・フォーラム」などを除くと、活動の実際例も数少ない。青少年にたいする各種メディアの影響力が世界でもきわだって強いことを考えれば、この状況は異常だ。

 

 最近の少年事件報道についても、メディア・リテラシーの観点からの検証がぜひとも必要だと思うのだが。IT革命とやらに踊らされる前に、メディアを読みとく私たちの眼力こそが必要だと本書は教えてくれる。<中西新太郎・横浜市立大教授>(岩波新書・660円)

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◆◆月刊「テーミス」編集主幹 伊藤寿男 内奥に切り込む調査報道を◆◆
1999
年8月1日東京朝刊 4頁 オピニオン掲載記事より

 

 いま各地でオンブズマンが公務員の税金むだ遣いなどを精力的に摘発している。新聞記者は組織内ジャーナリストだが、最後に問われるのは個々の志と良心である。さらなる奮起を期待したい。菅谷明子氏の「コンピューターが変える調査報道−米新聞界最新リポート」(七月七日−十日)を、私は調査報道への“応援歌”と思って読んだ。

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●記事

 

◆◆【コンピューターが変える調査報道】米新聞界最新リポート(4)◆◆
1999年7月10日東京朝刊26頁第4社会掲載記事

 

■あくまで「補助」

 「ジャーナリストは、すでに起こったことを伝えるのは得意でも、水面下でゆっくり進行する変化をとらえるのは必ずしも得意ではありません」

 

 こう話すのは、地域に根ざした報道を支援するシビックジャーナリズムセンターの代表でピュリツァー賞受賞記者のジャン・シァッファーさん。そんな彼女が高く評価するのが「オマハの犯罪」だ。アメリカではジャーナリズムが長期的視野に立って報道することや、問題の解決策まで提示すべきだという声が年々高まっている。

 

 「オマハ・ワールドヘラルドはこれまでも犯罪関連の記事を掲載してきましたが、こうしたものは個別のケースを伝えただけで、犯罪を大きな視点からとらえたことはありませんでした」。十二ページにわたる特集企画の一面には、反省文ともとれる編集長によるこんな前書きがあった。

 

 ヘラルド紙は、市民に役立つ報道のあり方を模索していたが、そこで威力を発揮したのがコンピューターだった。過去七年分、千三百万件もの詳細な犯罪情報をデータベース化し、犯罪別、地区別などに分類して比較分析を行った。過去にさかのぼってデータを使うことで、犯罪のパターンやトレンド、さまざまな要素との相関関係も分かる。これらをもとに、犯罪が多発する地区はどこか、犯罪の理由は何か、犯罪を減らすのにはどうしたらよいか、など具体的に報道。犯罪多発地域がひと目で分かるように色分けした地図も作製した。コンピューターのおかげで、膨大なサンプルを使い、より実態に近い状況を把握し、独自の分析が可能になった。

 

 多くの記者たちもコンピューターがひらく新たなジャーナリズムの可能性を認めている。「これまでは、専門家のコメントを引用してその事柄に対する答えとしていましたが、コンピューターを使えば記者が仮説を立て、それを自身の手で科学的に分析したうえで、独自の答えを導き出すことができます」とニューヨーク・タイムズのコンピューター補助記者、ジョッシュ・バーバニー氏は言う。

 

 「新聞が生き残るためには、複雑な世の中の動きを深く分析することが今後ますます必要になるでしょう。そのためにもコンピューターが必要なのです」

 

 一方、ワシントン・ポスト紙のデータベース編集者、サラ・コーエンさんは、データベースを利用して地域のさまざまな特徴をあらかじめつかんでおけば、何かあったときに最もその問題に切実な人に話を聞くことができると言う。

 

 「これまでは、どこに行ってだれに話を聞くかにしても、『よく他の媒体が取り上げているから』とか、『たぶんあのあたりが適当だから』などと単なる予想で取材に出ていました。ところが、本当のところ、その地域や人がその問題を一番象徴しているかということは分からずじまいでした。実際、データで分析してみると、予想と違っていることに本当に驚きます」とコーエンさん。

 

 こうしたメリットが理解されるにつれ、取材過程にコンピューターを取り入れるメディアは増え続けている。今では多くのテレビ局にも取り入れられている。また、「コンピューター補助報道」はジャーナリズム大学院の「定番」教科となりつつある。それに加えて、海外からの関心も高まり、外国人ジャーナリストがセミナーのためにやってきたり、海外で講座を開くこともある。

 

 関心は高まるばかりだが、コンピューターさえマスターすれば、よい調査報道が可能になるというわけではない。「データはあくまでも最初の一歩。大きな流れをつかむために参考にするものでしかありません」と全米コンピューター補助報道機構の代表、ブラント・ヒューストン氏はクギを刺す。

 

 「大切なのはデータを参考にしつつ、実際に外へ出て取材をし、現実がどうなっているかを確認することです。これまでの取材方法が大切なことは言うまでもありません」

 

 その名が示す通り、コンピューター補助報道はあくまでも調査報道を「補助」するもので、コンピューター時代でも一番大切なのはジャーナリストとしての資質のようだ。

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◆◆【コンピューターが変える調査報道】米新聞界最新リポート(3)◆◆
1999年7月9日東京朝刊24頁第4社会掲載記事

 

■民間団体の支え

 「われわれの活動が評価されているようで、とてもうれしい」

 今年のピュリツァー賞が発表された翌日の四月十二日、米コンピューター補助報道機構の代表、ブラント・ヒューストン氏は弾んだ声でそう言った。

 

 最高栄誉の金賞に輝いたワシントン・ポスト、調査報道部門で受賞したマイアミへラルド。どちらもコンピューターを駆使したデータ分析を取材過程に取り入れていたが、こうしたコンピューター補助報道を広めてきたのが同機構だからだ。

 

 拠点はミズーリ州コロンビアのミズーリ大学内にある。調査報道の質向上を目指すジャーナリスト団体の調査報道記者編集者の会と同大学の共同プロジェクトだ。設立は十年前の八九年。以来、全米各地でセミナーを開き、コンピューターの初歩的な使い方からインターネットを使った情報収集法、表計算ソフトでデータを解析する方法やデータベースの構築法などを教えてきた。セミナーにはこれまでに数千人が参加、「卒業生」がピュリツァーを獲得した例も数多い。

 

 アメリカでは、政治、経済、保健、犯罪、教育、環境など、ありとあらゆる情報の公開が義務づけられている。情報公開にもデジタル化が進み、印刷物での公開は極端に減り、インターネットやフロッピーディスクでの公開が主流になっている。ところが、行政データは貴重な情報を提供してくれるものの、きちんと整理されているわけではなく、そのままでは分かりにくい。そこで、表計算やデータベースのソフトウエアにデータを落として項目別にまとめたり、キーワード検索で必要な情報だけを取り出すなどして加工する。

 

 「コンピューターを使えば、世の中のトレンドやパターン、各要素の相関関係などを瞬時に分析することができ、報道に深みを与えることができます」とヒューストン氏は説明する。

 

 公開されていない情報は、情報公開法を使って請求でき、拒否された場合は訴訟に持ち込める。セミナーでは、こうしたことも合わせて教えられている。

 

 政治献金と通過した法案の相関関係を分析したインディアナポリススター&ニュース、がん発生率の高い地域とそこに住む人のライフスタイルの特徴を検証したニュースデイ、統一試験の成績と親の教育の関与、教師の質、貧困度などの関係を分析したデトロイト・フリープレス、環境データを使って三分の一の州民が連邦政府の基準を二十倍も上回る空気汚染地区に住んでいることを明らかにしたレコードなどさまざまだ。

 

 四月初めにボルティモアで行われたセミナーに参加してみた。面白いのは、意外なデータが地域の動きを把握するのに役立つことが報告されていたことだ。例えば、死亡データを項目ごとにまとめれば、死亡原因が分かり対応策が提示できるし、他の地域と比較すれば地域の特色が出せる。データを地域別の平均年収と合わせれば、平均寿命と貧困の関係なども分かる。

 

 失業者データを分析すれば、地域経済がどんな分野に好調・不調をもたらしているのかが分かり、全体の動きを把握しやすい。年齢・人種別に分析もできるから、労働者の特色もつかむことができる。

 

 コンピューター補助報道機構の強みは、社の利害を超えて記者同士がテクニックを教え合い、どんなソフトウエアを使えばよいか、どんな情報が役に立つかなどオープンに情報交換できる場をつくり出している点だ。情報センターにはコンピューター補助報道の例、一万二千件の記事がデータベース化されており、会員であればインターネット上からすぐに取り出すことも可能だ。ノウハウを教え合うメーリングリストもある。

 

 こうした民間支援団体の意欲的な活動が、調査報道全体の底上げにしっかりと貢献している。

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◆◆【コンピューターが変える調査報道】米新聞界最新リポート(2)◆◆
1999年7月8日東京朝刊24頁第4社会掲載記事

   

 ■50万件の交通事故

 データベース編集者−。

 こんなユニークな肩書を持つのは、全米最大の発行部数を誇るUSA TODAY紙のポール・オーバーバーグ氏。同紙が、データベース編集者を最初に迎え入れたのは十年以上も前のことだ。

 

 オーバーバーグ氏の最近の自信作は、昨年十一月に一面を飾った交通事故のトレンド分析の特集記事。あるとき同僚と「最近スピードの出し過ぎなどマナーの悪いドライバーが増えて、危ない思いをすることが多くなった」と話したことが発端になった。ところが、データを取り寄せて実際に分析してみたところ、何から何まで予想とは裏腹だった。

 

 パートナーを組んだ記者が警察などを取材する一方、オーバーバーグ氏はデータを担当した。分析に使うための統計を探し回ったところ、高速道路交通安全庁が毎年五万件の交通事故と十一万人のドライバーの記録を残していることを突き止めた。「多くの行政情報が公開されていますが、そのままではよくわかりません。その意味付けに威力を発揮するのがコンピューターです」と彼は言う。

 

 記事では、八八年から九七年までの五十万件分の事故原因と百万人以上の運転手の詳細な情報をデータベース化した。こうすれば、項目ごとに情報を呼び出してまとめられるし、過去のデータと比較すれば事故の傾向なども瞬時に分析できる。

 

 「コンピューターを使うメリットは、一般的に考えられていることが果たして本当かどうかを確かめられることにある」とオーバーバーグ氏。

 

 実際、世の中の大きな流れが分からないまま、記者が予想を立て、仮説に当てはまるケースだけを並べればそれなりに記事はできあがる。ところが、コンピューターを使えば膨大なサンプルから実態に沿ったトレンドをつかむことができ、社会の動きをより正確に把握できるメリットがある。

 

 今回の取材過程でも、データを分析して初めて意外な運転トレンドが浮かび上がった。信号無視、スピードの出し過ぎ、停止サインの無視などによる「攻撃的な運転」をするのは男性が多いとの仮説に反して、男女の比率はほぼ同じだった。若者に限らず中年や一部の高齢者も運転ルールを守っていない。当時マスコミはこぞって「最近とくに向こう見ずな運転が増えている」と報道していたが、それも事実ではなかった。ここ十年、こうした運転をするドライバーの割合は変わっていない。

 

 コンピューターはさまざまな試算も可能にした。「攻撃的な運転」が原因の交通事故で、訴訟などにかかる費用は一年間に全米で百三十億ドルにものぼる。事故による治療費だけでも三十四億ドル。重傷を負った人が治療のために負担する金額は平均七万六千ドルだった。記事には、グラフや表もふんだんに使われた。

 

 ちょっとしたルール違反が事故につながり、そのためにばく大な費用がかかることをデータで詳細に実証しただけに説得力がある。事故多発地域が西海岸と南部に集中し、北東部では少ないことも明らかにした。

 

 「コンピューターは伝統的なジャーナリズムの手法では不可能だったことを可能にしてくれます」とオーバーバーグ氏。しかし、データの扱いには細心の注意が必要だと語る。「まずはどんなデータも疑ってかかること。データがどう組み立てられているのか、だれがどんな目的で収集したものなのか、どんな特徴があるのかなどを見極めることが必要です」。実際、今回のデータも、多角的に調査を行ったうえで初めて分析に使うことを決めたという。

 

 コンピューターの威力を知ったのは十年前。系列のニュース配信会社で環境問題担当記者だったころに、公開されたばかりの水質や大気汚染の基準データを全米各地の汚染度に照らし合わせる作業をしていたときだ。同僚がコンピューターを使って、効率良くかつ正確にデータ分析しているのを見て「コンピューターにはとてつもないパワーがある」と思ったという。

 USA TODAYは全国紙という性格上、広い範囲をカバーする一方、地域ごとの情報も必要とされる。コンピューターは、そんな特性をサポートする格好のツールになっている。

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◆◆【コンピューターが変える調査報道】米新聞界最新リポート(1)◆◆
1999年7月7日東京朝刊24頁第4社会掲載記事

 

 ■ピュリツァー賞と分析

 コンピューターが、アメリカの伝統的な調査報道のあり方を変えつつある。取材過程にコンピューターを用いてデータを収集・分析する「コンピューター補助報道」が、定着してきたからだ。

 

 今年四月、ジャーナリズムの最高権威とされるピュリツァー賞が発表されたが、そこで目立ったのもコンピューターを導入して取材された報道の数々だった。

 

 最も栄誉ある公共サービス部門の金賞を獲得し、ウォーターゲート報道以来の快挙を遂げたワシントン・ポスト紙の取材チームには、二人のコンピューター分析の専門家が含まれていた。

 

 ジョー・クラベンさんはその一人。ジャーナリズム大学院時代にコンピューター補助報道を学び、その普及につとめる団体で働いた経験もある。この企画も、連邦捜査局(FBI)のデータをチェックしていたときに、ワシントンDC警察による「正当化される殺人」の欄が抜け落ちているのを見つけたことが発端となった。

 

 不審に思った彼女は、情報公開法を使って情報の詳細を請求。それによって、DC警察が他の都市と比較にならないほど警官の発砲が多く、また罪のない市民を射殺している割合も極端に高いことが分かった。「これは良い記事になる、と直感しました」とクラベンさんは振り返る。

 

 報道では、原因を追究する過程で膨大な情報量を処理できるコンピューターが威力を発揮した。人口に始まって、暴力犯罪、逮捕者、殺人の数や、警官による発砲・殺人の件数を過去六年にさかのぼってデータベース化し、その傾向を分析した。DC警察の特色を際立たせるため、犯罪が多い他の二十七都市との比較も行った。また、三百件余りの警官に対する訴訟をはじめとした情報も、データベースや表計算ソフトで分析された。

 

 その結果、警官の発砲や、発砲による殺人が多い原因は、銃を扱う訓練の不足や、発砲が「勇気ある証拠」だと見なされる風潮にあることなどが分かった。また、遺族や負傷した市民からの訴訟で、DC警察が支払う賠償金も算出され、安易な発砲の見返りに膨大なコストがかかっていることも示した。報道がきっかけで司法省が調査に乗り出し、銃の訓練時間が増加するなどの進展も見せている。

 

 一方、マイアミ市長選挙の不正を暴いてピュリツァー賞の調査報道部門を獲得したマイアミヘラルド紙の報道も、コンピューター分析のたまものだった。「この十年、ピュリツァー受賞作にコンピューターを使った報道が増え続けている」と、全米コンピューター補助報道機構の代表、ブラント・ヒューストン氏は言う。

 

 今やアメリカの大手新聞社が、コンピューターを自在に操り、データを収集、分析、加工できるコンピューター補助記者やデータベース編集者と呼ばれる専門家を抱えるのは珍しくない。ニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストにはそれぞれ二人、USA TODAYでは四人がこうした肩書を持つ。もっとも肩書がなくても、各社ともデータ分析を取り入れる記者は増えており、社内でのトレーニングも頻繁に行われている。

 

 「テクノロジーの進化はこれまでも取材方法を変えてきましたが、今では表計算ソフトなどを使いこなすのは記者としての必要条件になっています」と、ワシントン・ポストのコンピューター補助報道代表、アイラ・チェノイ氏は言う。

 

 「全米の投票パターンを独自にデータベース化して、大統領選挙の取材で各地に出かけるときにそれを参考に記事を書く記者もいます」

 コンピューター革命は、伝統的な調査報道の手法や質を変え、新しい形のジャーナリズムを生み出している。デジタル時代の調査報道を四回にわたって報告する。

すがや・あきこ 昭和38年生まれ。米コロンビア大学大学院修士課程修了。「ニューズウィーク」日本版を経て、現在はワシントンDCを拠点に米国事情をリポート。

メールアドレスは AkikoSugaya@aol.com

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