政策提案

広帯域ネットアクセスでベスト・アクセシビリティ都市を目指す!
---智の産業創出のメッカ 情報自由都市京都--


2001年10月16日

高木治夫 (SCCJ代表理事、ネットイン京都代表) 
新川 達郎 (SCCJ理事、同志社大学大学院総合政策科学研究科教授)
浅野令子  (SCCJ事務局長)

1. 政策の概要
政策テーマ: 京都を情報自由都市に
政策実現の方向: 無線インターネットとブロードバンド通信の整備による地域づくり
政策の実行手段: 京都通信公社の設立、無線インターネットのアクセスポイント設置
政策経費: 公社設立授権資本10億円、初期投資総額15億円(アクセスポイント5000箇所)
政策効果: 経済活性化、教育文化活動、災害時緊急時通信網、行政情報化、電子政府の実現

2.政策の説明
情報は現代の水。おいしい水が誰でもどこでも飲めて、それが生活の糧となる
【ストーリー】 
2005年10月 京都 室町 
数年前、きもの産業の衰退により、老舗の建物は取り壊されマンションが次々と建てられる室町は、大阪のベッドタウン化しつつあった。しかし、2002年から京都府全域で光ケーブルの規制緩和(ダークファイバ貸し)や電波の規制緩和が行われ、京都タワーを中心にお寺にも無線が設置され、誰でも安価で高速インターネットが使え、世界中のテレビが見られるようなった。室町の町家では、学生や若者によってインターネット放送局が次々と作られ、京の語り部から学ぶ智恵、文化など京都コンテンツが世界に発信されている。空きビルには全国から集まった情報編集サービス企業が次々に入居、作業所や授産施設も、インターネットを利用した小口の受付・発送業務、行政文書のテキスト入力などSOHO型の仕事を行っている。仕事は生活の糧を生み出す労働ではなく、個人の特質に合ったライフスタイルと定義されるようになってきた。また、図書館、会議室、病院、行政窓口、銀行、駅など人が集まる空間から優先的に無線インターネットのアクセスポイントを設置し情報通信環境整備が徹底して行われた結果、無線携帯端末を分身のように使い、国内外の観光客、障害者や高齢者もATMや券売機をたやすく使い、交差点や狭い道路での移動も安全になり、人が楽しく外出できる環境が整っている。衣食住接近のライフスタイルを室町は取り戻した。また、住民によるリアルタイムな情報発信をしてきたおかげで、いぜんより増して外国人・日本人を問わず観光客が訪れるようになり、「また行きたい観光地」として京都・室町は不動の地位を築きつつある。

【提案のまとめ】
1.インフラ環境整備:街中や自宅に有線・無線を含めた多様な広帯域インターネットの確保
2.リスク管理:どこでも複数の経路を経由した広帯域アクセスの確保 災害時の情報アクセス網の確保
3.情報の発信
3.1情報公開:税金にもとづく活動の情報のインターネットでの公開
3.2情報のアクセシビリティ基準の設置:誰でもどこでもアクセスできる情報ツールの開発
4.人材育成
4.1メディアリテラシー教育で情報の受発信能力の向上
4.2 エデュテイメント(education&entertainment)教育指導者養成
5.具現化のために:京都IP通信公社株式会社の設立(配当のない社会的責任企業)

【期待される効果】
智の産業創出と雇用の創出
・無線インターネット事業
商店街、病院、駅、学校、図書館、会議室、行政窓口、銀行など人が集まる空間から優先的に無線インターネットのアクセスポイントを設置し、啓蒙を実施。
街角に和菓子屋さんがあるように、いたるところに無線アクセスポイントを設置し、設置者に利用料を払う。
・電話事業:無料のVoIP電話サービス
・ 放送事業
・ホットスポット事業
・高度メディアを利用した教育事業
・Electric Commerce事業

【行政のすべきこと】
実現のためにインターネットの広帯域網を利用する行政需要の前倒し集積をおこなう

・リスク管理のためのインターネットの広帯域網を確保
・図書館、会議室、行政窓口、病院、銀行、駅など人が集まる空間から優先的に無線インターネットのアクセスポイントを設置
・VoIP電話へ移行
 ・VoIPコールセンター・・・顧客(府民)相談対応のスマート化
・定点カメラによる街中のセキュリティ監視
・券売機、信号、行政窓口機器、案内ボードなどの機器や案内ボードに、P2P無線インターネットを組み込む

【提案内容】
1.インフラ環境:街中や自宅に有線・無線を含めた多様な広帯域インターネットの確保
光ケーブルの規制緩和(ダークファイバ貸し)や電波の規制緩和が実現し始めており、この機会を生かせば、世界でもっとも先進的なブロードバンド産業と文化の集積した都市づくりができ、街の中心地から離れた比較的安価な過疎地でも、大、中小問わず多くの企業の進出が期待できる。
自宅やオフィスで高速インターネットを活用できるようにするとともに、街中でも高速インターネットを活用できる環境を作り、屋外でも自宅やオフィスの感覚で高速インターネットが活用できるようにする。
駅やホテルからでも、カフェからでも、お寺からでも、高速インターネットが使えれば、府外から安心して来ていただける観光インフラのしつらえともなる。
障害者、特に視覚障害者が困ることは、銀行のATMが使えない、駅の券売機が使えないなどがあるが、無線携帯端末を分身のように使えれば簡単に実現できるようになる。
障害者で、横断歩道を渡るとき時間がかかる人もいる。・・・その人の移動に合わせて信号の時間がかわればうれしい。

韓国では、「ブロードバンドユーザー」は,2001年中に750万〜800万世帯に達する見込み。その環境にもとづくニーズで、新しい商品、事業、企業が産まれて、人が育ってきている。
私たちは、府内全域に10Gbpsの地域ネットワーク網を構築し、その上に無線インターネット網を構築し、世界で誰もやっていないことに挑み、智の創造型社会を生み出す。(100年前の京都疎水事業は、まさにこれである)

・府内全域のダークファイバーを借用して、10Gbps以上のインターネット広帯域の地域網を構築し、ISP、企業、団体、市町村へ卸す。県外への接続は、直接海外へ接続するなど多様な方法でおこなう。
・その広帯域地域網の上に、多様な方法で無線ネットワークを構築する。
・特に街中の無線インターネットアクセスに関しては、重点的に取り組み、その環境にもとづく新たな技術開発を創発し、新産業をインキュベーションする。
・府民一人に1つ以上のグローバルIPアドレスを提供

2.リスク管理:どこでも複数の経路を経由した広帯域アクセスの確保
阪神大震災、米国テロ事件の経験から、インターネットが重要なライフラインとなっている。このようなことが万が一に府内で発生したときにも、通信を確保できるような技術の開発と推進を。自家発電システムを地区ごとに設けていれば、災害時にも強い京都を実現できる。
いずれ携帯電話は、802.11xなどの無線IP機能を併せ持ち、無料で高速インターネット通信が可能にもなる。(すでにPCレベルでは、IBMのノートPCに標準で組み込まれ、ホテルや空港で無線インターネットができる)

・ 府内全域を、光と無線を利用して2重系以上の経路を使ったインターネットの広帯域網を構築
・ 停電時における電力確保のための、ニューエネルギーによる自家発電システムの開発、促進と導入
・ サイバーテロ対策のためにセキュリティ監視センターの設置

3.情報の発信
3.1情報公開:税金にもとづく活動の情報のインターネットでの公開
人を育て、企業を発展させ、智の産業や文化を築く源は、情報のデータベース。情報こそが、人類の大切な資産である。行政文書のデジタル化事業をIT教育促進事業と位置付け、雇用を創出する。

・デジタル化(テキストを必ず含む)
今後、新たに発生するもの、過去100年ほども含めた行政・研究機関情報のデジタル化(テキストを必ず含む)をおこないネット上に発信する。
・IT初心者教育訓練(雇用のミスマッチ対策)
テキスト入力・校正業務、写真のデジタル化業務を、IT初心者教育訓練(雇用のミスマッチ対策)の機会と位置付け、NPOを中心に業務を委託し、ネットワーク上での雇用経験者を増やす。

3.2情報のアクセシビリティ基準の設置:誰でもどこでもアクセスできる情報ツールの開発
視覚障害者は、インターネットにより、歴史的上初めて、情報を受発信(読み書き)をリアルタイムで手にした。誰でもフェアな条件で情報の受発信ができる都市にすることが大切。

・情報のアクセシビリティのガイドライン作成
・アクセシビリティアドバイザやアクセシビリティ評価士の育成
・アクセシビリティコンテストの開催と啓蒙
・様々なアクセシビリティテンプレートを募集や開発し、それを利用して行政情報を発信する。
また、オープンソースとして提供し、誰でも無償で使ったり、改善できるようにする。

4.人材育成
4.1メディアリテラシー教育で情報の受発信能力を磨き向上させる
だれもが、低コストで情報発信できるという人類史上初めての状況を手にしつつある。
このような時代には、情報を主体的に取り込み、有意義に実生活に取り込むために、小学校や中学校でのメディアリテラシー教育を充実させ、情報を正しく活用できる能力が必要となる。
メディアリテラシー教育は、今後益々重要になって行き、メディアリテラシー教育は21世紀のライフラインの根幹になる。総務省では既に、小中学生用のメディアリテラシー教材の開発が行われており、京都府全域で、総合教育の視点にたって、企業やNPOとパートナシップを組み、メディアリテラシー教育の普及、向上に務める。
メディア・リテラシーとは、@ メディアを主体的に読み解く能力 A メディアにアクセスし、活用する能力 B メディアを通じコミュニケーションする能力。特に、情報の読み手との相互作用的(インタラクティブ)コミュニケーション能力。の3つを構成要素とする複合的な能力のこと。
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/top/hoso/kyouzai.html
4.2 エデュテイメント(education&entertainment)教育指導者養成
ブロードバンド時代には、インターネットは、教科書をベースにしながら、リアルタイムの情報を提供でき、情報量の新鮮さ、訴求力は教育ツールとして追随をみない。
京都では、エデュテイメントフォーラムを全国に先駆けて実施、毎年関心が集まっている。
http://www.kyoto-one.ad.jp/edutainment/ef2001/outline.html
そこでその強みを活かして、社会、音楽、美術、国語、理科など、すべての科目に応用可能なエデュテイメント手法を開発し、エデュテイメント教育指導者を養成する。

参考文献
情報化支援NPO
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/chousa/barrier_free/010530_3-2.html

5.具現化のために:京都IP通信公社株式会社の設立と育成(配当のない社会的責任企業)
上記を実現するために、直接的、間接的、誘発的にインキュベーション事業を展開し、5年後に1兆円産業の創出を目指す。
既存のエスタブリシュメントに政策の権威付けを求めることをせず、インターネットの民主性を担保する民立公的機関
・実用化のための開発機能
・事業推進機能
・政策立案のための研究機能


【参考 Food for Thought】
・朝日新聞2001年10月11日13版10面 中谷巌
「物まねで追いつくのでなく、知識を生かし、だれもやっていないことに挑む『知識創造型社会』に変わるしか、市場経済のなかで生き残る道はない。ビジネスでも学問でも、野球のイチロー選手のように、一人ひとりが創造力を発揮することが長期的課題だ」

・無線インターネットの設備
1つの基地局で半径100メートルをカバーできる。1ヵ所30万円で設置して、都内3000ヵ所で10億円程度、全国の主要都市の人口密集地をカバーしても200億-300億円で可能
http://it.nikkei.co.jp/it/njh/njhCh.cfm?id=20010928s249s001_28

・安延 申
既存のエスタブリッシュメントに政策の権威付けを期待することは、高度成長時代のような、基本的に同じ成功の原則が将来も続くと見込まれる場合には意味がある。しかし、現在のような大きな変化の時代には、既存の権威は必ず「守り」に回り、変化に遅れる。
http://www.rieti.go.jp/column/2001/0017.html