■トップページへ行く ■新着情報へ行く ■論文・講演・受賞ページへ行く

ドットコムNPOのビジネスインキュベーション
(株)愛きもののケースから

浅野令子、高木治夫、谷田吉貞
SCCJ (日本サスティナブル・コミュニティ・センター)
http://www.sccj.com
日本NPO学会 京都大会
2001_3_20

1.はじめに

ライフスタイルや価値の多様性に伴い、市場競争力だけではなく社会的利便性の最大化を行う企業企業が歓迎されており、財務内容だけではなく、社会貢献度も重要視される時代にきている。
インターネットの普及に伴い、普通の人間でも、特定のテーマなどによって自発的につながり新しいものや価値を作ってゆくというネットワーク上での行動様式は90年代初頭から特に活発化しており、そのような行動様式は、既存の社会・経済システムに支配されることが少なく、情報経済というべきものが形成されている。
このような経済を内橋克人は「多元的経済社会」とよび、利潤追求と競争を原理とする競争経済と、連帯や協同を行動原理とする共生経済が、並存するような多元的経済社会が形成されつつある。(河邑、2000、p.83)
そこで、SCCJでは、社会有益性に富んだ非営利の情報コミュニティをまず形成し、その外円に営利事業コミュニティを生み出そうと試作している。本稿では、SCCJが設立支援した株式会社愛きものを例にとり、多元的経済社会のビジネスインキュベーションに関して考察していく。

このページの初めに戻る

2.モノ経済と情報経済を組み合わせるネット上の価値創造

通商産業省「日本の消費者向け(BtoC)電子商取引市場」によると、電子商取引の規模は、1999年2,480億円(不動産を除く)で、不動産を含むと3,360億円。2004年では不動産を除き5兆円、不動産含めると6兆円の市場規模を突破すると予測されている。同調査では、電子商取引を「商取引(=経済主体間での財の商業的移転に関わる、受発注者の物品、サービス、情報、金銭の交換)を、インターネット技術を利用した電子的媒体を通して行うこと」、と定義している。
1999年の伸び率では市場規模の大きなセグメントは、PC,不動産、自動車などで、伸びの著しいセグメントは、金融、食料、サービス、伸びの少ないセグメントはエンタテイメント、書籍・CD、衣類などである。伸びの少ないセグメントの商品の多くは、「特に店頭での商品確認ニーズが高く、流通中小事業者にとってはコスト負担大。」である。
同調査では、2004年には不動産を除き5兆円ものBtoC市場があると予測されており、それに加えてインターネットオークションのようなCtoC市場も大きくなる。このように電子商取引は巨大市場を形成することが明白だ。その一方で、惜しげもなくデジタル無償財を提供し、利潤を排除しないまでも、テーマ毎にボランティア的に機能する無数のコミュニティが結びつき情報経済ともいうべきものができている。情報化時代ではネットワーク上で顧客の価値主導のコミュニティが形成されつつあり、企業もそのコミュニティとの連携を取ることを重要視せざるを得ない。一方、情報経済の担い手達も、情報経済での価値生産を、モノ経済へ還元させながら生活していかなければならない。このようにモノ経済と情報経済は対立の構図を見せながらも共存しなくては、私達の生活は成り立たなくなっている。そこで、ビジネスモデル学会が2000年月に設立されたように、情報経済とモノ経済のインターフェイスを取り結ぶ新しいビジネスモデルの模索が始まっている。

このページの初めに戻る

3.ドットコムNPO SCCJとは

この章では、NPOの活動インフラとしてインターネットを利用するSCCJとそのネットワーク・コミュニティに関し言及する。

3-1 SCCJとは

さまざまな立場の人々が、共働的に福祉、経済、環境等従来の分野を超えて、21世紀にふさわしいコミュニティのデザインをしていく必要があると考え、福祉、経済、環境、地域固有の文化継承活動を融合させた持続可能な循環自律型コミュニティ(Sustainable Community)建設の実現に向け、1999年1月より活動を開始した。
インターネットを駆使しながら、活動を行うのがSCCJであり、そういう意味では、ドットコム企業という呼び名に呼応して、情報活用能力支援等で事業を組み立てていくSCCJを、ドットコムNPOということもできるのではないだろうか。数年来、インターネットが急速に広がり、高齢化も加速しており、情報化支援を切り口に、現在オフライン参画者70名程度。eGoupsを使い、目的別にメーリングリストを多数主催、ネット参画者のべ300名。ネットでつながる「知」のネットワークがSCCJの財産といえる。「ネットワークはボランティア的な活動を支えるコミュニケーション手段として有効で、ネットワーク社会が進展するとともに互恵的な奉仕による社会構築手段として最適」(金子、1992年)と指摘するように、メーリングリスト上での情報交換は、新しい価値や社会モデルを作ろうとするメンバーが最新情報の提供を行い、活動基盤が広がっている。
SCCJでは、オフラインで毎月開催するエコミュニティ研究会、「情報」、「ベンチャー」、「NPO」をキーワードとして開催する京都研究会などの研究会事業があり、それを核と形成される「智恵」のネットワークが各種事業のベースになっている。このように、SCCJでは情報経済というものが明白に存在している。
通商産業省「民間介護・生活支援サービスの関する研究会」中間報告1999年では、介護福祉は社会コストではなく、経済の発展の為の投資として位置付け、福祉関連の設備投資が実体経済に及ぼす効果が期待されている。イギリスのブレア政権も、welfare to workfareへと切り替え、高齢者を福祉サービスの消費者として一面的に捉えるのではなく、高齢者の潜在能力を高く評価し、高齢者を自己の社会的・職業的経験を活かして社会に参画・貢献できる存在として捉え直している。そのほか一連の政府報告書でも、高齢者や障害者の情報化と経済効果を重要視している。
情報化支援により、管理されるより自らを律する自発性と創造力の育成をSCCJでは重要視しており、 報酬がわずかであっても、娯楽ではなく「仕事」とインターネットを結びつける活動をSCCJでは今後も続けていく。言い換えるならば、自発的な参加によるネットワーク上での価値創造コミュニティを資産に、新規ビジネス創出を行う。これがSCCJの核である。

ビジネス・モデルとは、1.だれにどんな価値を提供するのか、2.そのためにその経営資源をどのように調達し、経営資源をどのように組み合わせ、3.パートナーや顧客とのコミュニケーションをどのように行い、4.いかなる流通経路と価値体系の下で、届けるか、というビジネスのデザインについての設計思想である。(國領、1999、p.26)
このビジネスモデルをSCCJに応用すると、セクターや業種の枠を超えて「社会変革」に関心の有る人に、研究会を開催し、それらの研究会や各種事業情報をホームページやメーリングリストなどを通じて情報系の社会変革情報を流通させる。収益としては、会費収入、事業収入、インキュベーション・ローヤリティ、委託・助成金、寄付等である。SCCJでは事業の立ち上げを重視、寄付や、行政からの委託費ではなく、インキュベーションローヤリティの増加に主眼を向けていく。

3-2 SCCJのビジネスインキュベーション

2年間でSCCJがインキュベーションした事業としては以下のとおりである。
a. 「京都福祉情報ネットワーク(Win-kyoto)」
http://www.sccj.com/it_shien/shien2001.html
設立当初の取り組みは、情報弱者になりがちな障害者や高齢者を対象に、インターネット教育を行い、受講者はその成果を仕事というかたちで社会に還元し、より豊かな社会の構築に加わってもらうことを視野にいれ、「視覚障害者のためのインターネット講座」などの情報化支援事業を始めた。その中心となって活躍していた人たちが、2000年10月、「京都福祉情報ネットワーク(Win-kyoto)」を設立し、情報化支援教育の活動の和を広げつつある。

b. 視覚障害者のための耳で覚えるキーボードソフト「ウチコミくん」
http://www.sccj.com/e-oto/
パソコンを初めて学ぼうとする視覚障害者が、介助者なしでブラインドキー操作の学習ができる環境を整えるために、SCCJは京都工芸繊維大学工芸学部電子情報工学科と音声によるキーボード学習方法に関して共同研究をスタートさせた。開発はオープンソースで行うものの、Windows版の製品開発を目指し、2001年4月CD-ROMをリリース予定である。このソフトの開発にあたっては、日本ライトハウス、京都ライトハウス、筑波短期大学他、視覚障害者の情報化教育の現場の教師やボランティア、視覚障害者など40名ほどが、e-otoというメーリングリストに参加し、評価テスト、各種フィードバックを行いながら、開発をおこなっている。

c. e音ネット
「ウチコミくん」の配布やユニバーサルデザインの普及・開発を目的に、2000年末から計画を進めており、2001年春設立予定のNPO。
http://www.sccj.com/e-oto/

d. 株式会社愛きもの
SCCJでは、衰退する伝統文化・産業を、情報化を機軸に21世紀に活かす研究と実践もしており、和装業界関係者とITベンチャー関係者などが出資し、和文化のポータルサイトを持つ株式会社愛きものが2000年6月発足。SCCJではその設立支援を全面的に支援し、現在もコミュニティ形成に関するコンサルテーションを行っている。

このページの初めに戻る

4.Social Enterprise 株式会社愛きもの

4-1 社会起業の動き

(株)愛きものは本来事業の中に、社会問題解決の装置を組み込みながら、事業を展開していく方針である。それはなぜなのか、順を追って説明していこう。

まず社会に目を向けてみよう。

ライフスタイルや価値の多様性に伴い、利潤を追求する企業のあり方も問われている。対価交換を重視する経営より、社会有益性を目指すことで、価値対価効果が優れている企業が好成績をあげているアメリカの例が参考になるように、利潤を追求しながらも、社会的使命達成を目標とする社会責任企業の方が普通の企業より好成績をあげている。(森、1998)資金調達の面からも、資金投資先の事業の社会貢献度(企業の慈善寄付、雇用平等、自然や従業員の雇用環境、動物実験への取り組み、第3諸国への配慮)などを配慮する社会的投資(social investment)や、預金者が銀行が融資する事業の中で、良いと思うものを選び、利子率を自分で決めることによって(通常銀行利子を上限とし、無利子まで)、銀行が通常より良い条件で融資ができるソーシャルバンクやエコバンクが欧米において活発で、多様な価値観やライフスタイルが存在する現代において、市場競争力と社会的利便の最大化を行う企業が歓迎されており、財務内容だけではなく、社会貢献度も重要視される時代だ。
「社会起業家」ということばは、1997年イギリスのデモスというシンクタンクの報告書で提唱されており(町田、p.)、スタンフォード大学のSocial Entrepreneurship」という大学院のコースでは、「Social entrepreneurs take innovative approaches to solving social issues, using traditional skills to create social rather than private value」()、と定義しているように、ビジネススキルを使いながら、個人的な目的でなく社会問題の解決にあたって、革新的な取り組みをする起業家としている。 このような起業家が非営利や営利組織形態を使いながら、社会問題の解決あたる。アメリカのロバートエンタープライズファンドではそのような企業をsocial enterpriseと呼んでいる。日本語では社会的責任会社、社会的企業などと最近では呼ばれ始めている。
このように社会的にもsocial enterpriseの存在がクローズアップされており、情報化とゆるやかな雇用の創出を中心課題として掲げるSCCJが設立支援した (株)愛きものも戦略的に情報化とゆるやかな雇用の創出を目指す社会企業路線をひいていく。

4-2 株式会社愛きものと世界最大インターネットオークションeBayとのパートナーシップ

それでは、ここで、(株)愛きものができるまでの経緯やイーベイ社とのパートナーシップの関係性を整理してみる。

4-2-1 きもの業界の背景

1989年正絹きもの12,700億円が1998年6,580億円と、市場規模が半減している(繊維白書2000(株)矢野経済研究所)。その背景は、売上減→高額化という路線へ進み、その結果、日常着、おしゃれ着→儀礼、礼装化→物品化したきもの、へと消費者のニーズから離れた活動で消費者離れが進み、かつ顧客の高齢化が進んだためである。現状のきもの市場は、高額化、着るものから物品化、顧客の高齢化という悪循環構造になっている。言いかえれば、着物業界の利益還元先が、再投資(次世代の顧客創造)に回されず、前近代的取引形態(不明朗な取引、代金回収の長期化等)、複雑な流通経路(複雑な経路をたどる流通コストの異常さ)、不明瞭な価格設定等が、益々生産者、流通業者、消費者との意識のずれ(作りたい物、売りたい物、欲しいものとのずれ)を大きくし、業界の存続にだけ目がいき、顧客のニーズを省みなかったことに起因する。
また、ライフスタイルの変化も拍車をかけ、若者のきもの離れは益々進み、自分で買うものではなく、成人式のきもののように「きもの」とは誰かに買ってもらうものになっている。
このように、「高価で礼装化した着物を売る」という業界の姿勢に歯止めをかけるべく、着物業界の若手を中心に、安心してきものを楽しんでもらおうという「きものルネサンス」ともいえる動きも活発化している。たとえば儀礼化された現代の着物の風潮にこだわらず、安価に生活者に本物の着物を届けられるかを追求するきもの創作集団サムライなどがあげられる。
http://www.kimono-samurai.com

4-2-2 草の根コミュニティを持つインターネットオークション(競売)企業

「イーベイ社」 http://www.ebay.com/

1995年に設立されたイーベイ社(eBay Inc.)は、世界最大のインターネットオークション(競売)企業で、2001年1月現在イーベイ社の登録ユーザー数は、2200万人を上回っている。400万個以上の品物が販売向けとしてリストに記載されており、毎日、車、アンティーク、書籍、映画・音楽、コイン・切手、収集物、コンピューター、人形・彫像、宝石・原石、写真・電子機器、陶器・ガラス、スポーツ記念品、および玩具など、4,200種にも上る分野に45万個以上の商品が新たに加えられている。
その日本語サイト運営のため、イーベイ ジャパン株式会社(代表取締役社長 大河原 愛子)が設立され、2000年3月よりサイトがオープンされた。
(日本語サイトhttp://www.ebayjapan.co.jp/
イーベイ社の強みはなんと言っても、巨大な草の根口コミコミュニティにあり、yahooやアマゾンドットコムの業績悪化、e-toysの倒産を尻目に、一人勝ちの様相を呈している。また、生活保護者や障害をもっている者でもインターネットが使えれば、イーベイ社のインターネットオークションで、売り手となり生活の糧を得ているという分りやすい構図がある。チャリティオークションも取り入れている。しかし、イーベイ社は「場」の提供に徹し、草の根コミュニティが動きやすくなるようサイトを設計している。それにより多額の広告収入を使うことなく、口コミでユーザーが増えてきている。

4-2-3 イーベイ社とのパートナーシップの形成要因

1.機運の高まり SCCJのミッションの共有
SCCJのオフィスは、停滞する和装業界関連会社が立ち並ぶ京都室町にあり、前述のように、きもの業界の危機感から、ITときもので地域活性化(情報によるゆるやかな雇用の創出)ができないかと模索する会員がいた。

2.信頼できる紹介者の存在 
情報経営学専門の大学教授が、日本でイーベイサイト設立を計画しているO氏を、SCCJの代表に紹介。これが、愛きもの設立1年前。

3.共通文化の発見
イーベイ社は、前述のように消費者主導のネット上のコミュニティに支えられ、高齢者や障害者もオークションの売り手になり、生活ができる構図を持っていた。一方、SCCJでは高齢者や障害者の情報化支援から雇用の創出を視野に入れ活動を開始していた。

4.共通項をビジネスに結びつけるきっかけ
1999年12月実施した京都研究会にスピーカー役としてO氏に依頼。150名を超える参加があり、ベンチャー主流の中で、新しい社会構築のための存在としてNPOを認知する機運が高まった。また、この研究会の成功を受け、SCCJの信憑性が高まり、イーベイのオークションサイトを利用した伝統産業や地域活性化の話が急速に進んだ。

5.支援の潮流の存在
ネットワーク上での交流やオフラインで行った京都研究会でできた信頼やネットワークで、愛きもの設立に向け、賛同者や支援者が集まり、資本金1000万円も2ヶ月で集まった。

これら一連の流れを要約すると、エーバイ社とつなげる役目をSCCJが果たし、共通文化を見出し、インターネットという共通の技術を活用しながら、理念を共有するコミュニケーションが積極的に行われた点が、(株)愛きものの設立につながったといえる。

4-3 株式会社 愛きものとは

インターネットオークションを使った新しいチャリティの仕組みを作るほか、高齢者・障害者の雇用などを、本来事業に組み込みながら、金銭的メリットが追求できるビジネス・モデルの確立を目指している。

● 目標
和文化を楽しむプラットホームへの投資を精力的におこない、(1)価格決定を消費者に委ねる(きもの価格への不信払拭)、(2)低価格のおしゃれ着の提供、(3)若年層の顧客化などを目的としたITをベースとした新たなビジネスモデルで、きものの流通市場の創造をおこなう。このプラットホームで多くの人が出会い、海外を見据えたグローバル展開をおこなうことによって、インターネットオークションだけで、5年後に1000億円以上の事業規模を目標にする。

4-3-1 愛きものの特徴

● めきき制度で、顧客に商品確認ニーズを満たし、安心して買い物ができる。
愛きものでは、全てのアンティーク着物に対し、めきき士の評価(星付け)を行い、顧客が安心して商品を購入できるように、ひとつひとつの商品に統一した基準を元に、きものの素材、年代、保存状態や価格など、あらゆる角度からめきき士の徹底したQuality Checkを行っている。10段階評価による星付けが行っている。例えば、■染み8mm中程度4個の商品 100-(減点5×掛率2×掛率3)=70点。めきき士は、長年の経験と知識により、総合的にきものの評価ができ、どのめきき士がめききをしても同じ評価が出るように、研修会を行っている。また、商品に納得できなければ、返品も可能だ。

● 若い世代を中心としたきものコミュニティの創造。
オークションで落札されるきものの平均単価は7000円。きものは高いもの、若い世代は親に買ってもらうものという常識を打ち破り、納得した価格で、着る人が自分で購入できる価格で購入し、「ちよっとおしゃれに」気軽に、自分流にきものを楽しめるコミュニティを創造する。タンスに大切にしまわれてきたきものの多くが、そのまま眠り続けるか、二束三文の価格で引き取られているのが現状である。健全な車の中古車市場があるように、きもの流通の「場」のプラットホームにより、高齢世代から若い世代へのきものの循環リユースをはかり、若い世代を中心とした、きもののビンテージ流通市場を創造する。

4-3-2 本来事業で社会的成果を満たす

● きものオークションで「新しい寄付の創造」
日本ではNPOイコール草の根組織と受け取られるくらい運営規模の小さいところがたくさんある。既存の制度化で法人として活動をしているところと、草の根NPOとの「二重構造」
になっている。ジョンズホプキンス大学の国際NPO比較調査では、収入構成は、1995年では、会費・料金収入が52%、公的補助が45%、民間寄付が3%。オランダも3%で、寄付の割合が、22ヵ国両国が最も低い。(Salamon,1999,p25)従って、世界的にNPOの台頭が調査結果で明らかになってきているが、日本では寄付で小規模NPOを支援する機運や税制上の優遇処置もなく、脆弱な財政がNPO発展のネックになっているのは、明らかだ。そこで、この問題を解決するために、個人から広くきものの提供を呼びかけ、その販売をもって社会的に貢献している団体に還元していこうと考えている。きもの提供の呼びかけ、売上のNPOへの配分に関しては、SCCJなどのNPO団体に業務委託し、オークションへの出品サービス料を(株)愛きものの収入として現在では考えている。

● 情報化支援と分業で、高齢者や障害者の雇用も視野に
イギリスのブレア政権は、高齢者を福祉サービスの消費者と考える「welfare」ではなく、高齢者の潜在能力を高く評価し、高齢者を自己の社会的・職業的経験を活かして社会に参画・貢献できる存在として捉える考え方「workfare」へシフトしている。日本でも最近、高齢者や障害者の情報化を促進し、雇用へとつながる経済効果が重要視され始めてきた。報酬がわずかであっても、娯楽ではなく、若い世代の人々と付き合い、指導できる生きがいのある「仕事」をインターネットと結びつける活動は重要だ。
また、障害者も高齢化がすすみ、親が亡くなった後の自立した生活が課題。障害等級1級で年間981,900円、2級で785,500円であるが(平成9年度支給額)月1万円程度の作業所からの収入だけでは経済的には自立することは非常に難しい。作業は手作業中心で、企業からの下請け作業(紙箱折り、割り箸詰め、ホッチキス止等)や自主制作商品の製造、販売(菓子、手芸小物等)であるが、作業が単調で工賃が安い。一般民間企業における障害者の雇用達成率は、49.8%、大企業(従業員数千人以上)の企業の法定雇用率未達成率は67.5%、と厳しい。(兵庫県21世紀ひょうご創造協会,1998,p44)
このような現状をふまえ、インターネットを使って仕事をしてもらえるようオフィスにパソコンを数台設置し、若い人などからのきものや和文化に関する相談をネット上で直接できるように計画している。オークションへの出品などは、めきき、画像処理、アイロンあて、受注、発送など、細かな分業作業があることから、将来的には、経験や年齢、障害の種類や程度に応じて、分業作業の過程に高齢者や障害者などをいれることも検討している。

4-3-3 NPOのインキュベーション(孵化)のメリットとデメリット

NPOには、多種多様なバックグラウンドを持つ人が使命に共鳴して参画する。そんな多様な人々の「想いと情熱」がニーズやニッチに結びつき、新しいアイデアの創出や事業開発が行われる。(株)愛きものもそんな例だ。ITをフル活用した新しいきもの市場をつくろうとしている人、地域活性化の為のインターネット普及活動をしている人、高齢者や障害者の雇用促進に取り組む人、社会有益性のある事業の立ち上げに参画してみたい人等がSCCJの研究会事業を通じてつながり、株式会社愛きものを立ち上げた。理念の共有はSCCJの研究会や活動を通じて行われており、意思決定に必要な共通言語がある。(株)愛きものは、NPOのSCCJが設立支援した経緯から、資金や人材の調達は、SCCJを核とする「友達」の紹介などで行い、比較的容易に会社を立ち上げることができた。しかし、寄木細工的なNPOの立ち上げのように、役員などのフルコミットという点で問題があり、運営体制は現段階ではまだ脆弱であり、明確な意思形成プロセスと意思決定の仕組みづくりが今後の課題だ。

このページの初めに戻る

5.情報経済とモノ経済の相互関係

従来企業が情報量では圧倒的な強さを見せていたが、デジタル情報ネットワークの拡充により、消費者は距離に関係なく商品やサービスの情報を交換・共有することが可能となり、圧倒的な情報量を誇りながら、価値創造を行いつつある。また、NPOやボランティアなど、テーマにより自発的に参加しているネット上の集団での口コミ効果は大きく、企業はネットワークコミュニティとうまく付き合うことがますます重要になってくる。筆者が以前面談を行った視覚障害者用の情報福祉機器を開発・販売している会社の担当者は、視覚障害者の情報化ネットワークのメーリングリストに参加し、その中で行われる商品評価や苦情などをモニター。クレームが出るや否や、その対応をしているという。また、イーベイ社のようにネットワークコミュニティをコントロールするのではなく、サポートする「場」の提供者として、コミュニティと付き合い、win-winの関係を築く努力をしている企業もある。このように、コミュニティとうまく付き合う企業が、モノ経済の中の生存競争で勝ち残るのである。モノ経済と情報経済のインターフェイスをどう取り持つか。これは新しい社会では大きなテーマだ。
これに関して、佐々木祐一氏と北山聡氏が2000年9月に上梓した『Linuxはいかにしてビジネスになったか コミュニティ・アライアンス』の中で、ひとつの提示を行っている。「直接的にはネットワーク・コミュニティに干渉せず、そのサポート役に徹し、そこで生まれた編集価値を確実に経済価値へと返還することに注力する戦略」それが、コミュニティ・アライアンス戦略である。(佐々木・北山、2000、p204)
この本に事例として取り上げられた合資会社モルフィー企画(http://www.morphyplanning.co.jp)は、外側は合資会社だが、中核はモルフィーの趣旨に賛同したファンによって構成されており、ネットワークコミュニティとfor-profitの橋渡し役になっている。このような観点から見れば、モルフィーはsocial enterpriseの範疇に入るのではないだろうか。モノ経済と情報経済の間には、このようなsocial enterprise群が情報や資金のトランザクションをしている場合が多いと感ずる。これに関しては、また別の論文で検証していくが、social enterprise(株)愛きもののチャリティオークションの試みも、情報化を切り口として集まるネットワークコミュニティとのアライアンスのひとつであり、この活動を通じたファンを愛きもののポータルサイトのリピータにし、和文化のsustainableなネットワークコミュニティを創っていきたい。

このページの初めに戻る

6.おわりに

SCCJのケースにみるように、各地で高齢者・障害者を対象に、情報活用能力を高める活動団体が増えてきている。そういう団体と企業が協力し、多様なテーマが存在するネットワークコミュニティの成長を助けることで、高齢者・障害者も安心して活動できる互恵、互酬の場としての情報経済とそれを支えるモノ経済を育てることができる。企業でも、本来事業に社会性のある事業を組み入れていけば、コミュニティとのコミュニケーションも建設的になり、個人、団体の自律・自立心、自己責任と連帯感を醸成する信用・信頼のネットワークを創ることができる。このような観点から、今後各種のNPOとsocial enterprise、NPOと企業との様々なパートシップが組まれることが望ましい。

このページの初めに戻る

参考文献

青山道子『先端的社会システムの創造 〜社会的起業家の研究〜』
ソフト経済センター http://www.softnomics.or.jp/society/16works/re-social/colum-2.htm
IT都市基盤整備戦略委員会資料(日本下水道光ファイバー協会)
各国におけるITネットワークの現状
 available at http://www.softa.or.jp/it/shiryou.htm
金子郁容 『ボランティア もうひとつの情報社会』岩波新書、1992
河巴厚徳+グループ現代『エンデの遺言 根源からお金を問うこと』NHK出版、2000
『経営戦略としてのオープン・アークテクチャ』 available at
 available at http://red.glocom.ac.jp/~ikeda/wp/kokuryo1.html
國領二郎『オープン・ネットワーク経営』日本経済新聞社、1995
國領二郎『ネットワーク上の顧客間インタラクション』
 available at http://www.kbs.keio.ac.jp/kokuryolab/papers/1996001/interact.html
國領二郎『ネットワーク時代における協働の組織化について』
 available at http://www.kbs.keio.ac.jp/kokuryolab/papers/2000003/soshiki.htm
『最新アメリカ非営利活動事業』ソフト経済センター
 available at http://www.softnomics.or.jp/society/16works/re-social/colum-2.htm
佐々木祐一、北山聡『Linuxはいかにしてビジネスになったか コミュニティ・アライアンス』
NTT出版、2000
『スマートシニアがけん引する21世紀のシニア市場 わが国シニア市場創出のための5つの戦略』
 available at http://www.jri.co.jp/emergence/ssc/report_JRR99sep.html
通商産業省機械情報産業局(電子政策課)『IT革命がもたらす雇用構造の変化』1999
 available at http://www.jipdec.or.jp/chosa/IT_kakumei/ITkoyouHPkeisai.ppt
電子商取引実証推進協議会・アンダーソン・コンサルティング『日本の消費者向け(BtoC)電子商取引市場』、2000 available at http://www.ecom.or.jp/
『ベン&ジェリー アイスクリーム戦略』(Cohen, Ben & Greenfield, Jerry "Ben & Jerry's Double-Dip")(神立恵訳)、プレスティン出版社、1999
兵庫県21世紀ひょうご創造協会編 『社会的経済と民間非営利組織に関する研究』兵庫県21世紀ひょうご創造協会、1998
細内信孝 「コミュニティ創造とコミュニティ・ビジネス 競争と相互扶助が共存する地域経営へ」『Social Marketing Newsletter』2000年12月
町田洋次 『社会起業家』PHP新書、2000
町田洋次 『社会起業家ア・ラ・カルト』
ソフト経済センター http://www.softnomics.or.jp/society/16works/social/machida.htm
町田洋次 「社会起業家ア・ラ・カルト」
ソフト経済センター http://www.softnomics.or.jp/society/16works/re-social/colum-3.htm
森孝之『「想い」を売る会社』日本経済新聞社、1998
(株)矢野経済研究所『繊維白書2000』、2000
Alison Buttenheim "Social Enterprise Meets Venture Philanthropy: A Powerful Combination"
 available at http://www.cnmsocal.org/sector/laus3/body_labus3.htm
Community Wealth Tool Kit Developing Business & Nonprofit Alliances: Trends & Practices
 available at http://www.communitywealth.org/toolkit/focusreport.htm
Dennis Young, "Corporate Partnerships: A Guide for the Nonprofit Manager"
 available at http://www.nationalcne.org/papers/corp_partner.htm
Heather R. McLeod,"The Social Entrepreneur"
 available at http://www.in.com/incmagazine/articles/details/print/0,7570.ART149,00.html
Salamon, Lester ed. [1999]"Global Civil Society Dimensions of the Nonprofit Sector", Johns Hopkins University
Stanford GSB: Center for Entrepreneurial Studies: Social Entrepreneurship
 available at http://www.gsb.stanford.edu/ces/social_entrepreneurship.html
Social Etnerprise FAQ Roberts Enterprise Development Fund
 available at http://www.redf.org/faq/faq_intro.html
Charles Leadbeater"The Rise of the social entrepreneur", Demos, 1997
Stanford Center for Entrepreneurial Studies: Social Entrepreneurship
 available at http://www.gsb.stanford.edu/ces/social_entrepreneurship.html

このページの初めに戻る