報告 9月8日 びわ湖ホール上原恵美副館長とともに 文化と経済の循環サイクルを探る

掲載日時 2001-9-8 16:19:00 | トピック: レポート

■テーマ:「文化と経済の循環サイクルを探る」

講師  琵琶湖ホール 上原 

<「琵琶湖ホール」建設の経過>
滋賀県は1972年文化の幹線計画を立てた。図書館・美術館・博物館・文化芸術会館を琵琶湖の周りに造ろうというもので、「琵琶湖ホール」という名前ではなかったが、県民文化会館の建設もその計画の中にあった。滋賀県は京都に都ができてから1000年以上、人・物・食品を出す「京の台所」の役目を果たしてきたという歴史的背景がある。
 滋賀県では百貨店・ホテル・映画館といった「都市的文化装置」が無く、「都市的文化装置」について「行政需要」があった。その中で一番難しかったのがホールの建設で、’86年から6年間検討し、やっと四面舞台のあるオペラホールを造るという構想が固まった。デザインコンテの提案から、実際に着工するまで国内最高の人材に専門委員として加わってもらい、3年間議論をした。この土地は元々琵琶湖を埋め立てて公園にする計画であったのを、少し埋め立て部分を膨らませてホールの敷地としたもので、建築に3年かかり’98年9月5日開館、ちょうど3年経った。

<「琵琶湖ホール」の目指すもの>
「琵琶湖ホール」には3つのホールがある。オープニングの年にボローニャ歌劇場の引越し公演を行ったおかげで、すばらしい音響、すばらしい環境だという評判はたちまちイタリアだけでなくヨーロッパ各地でも知られ、関西でやるなら是非「琵琶湖ホール」でと言われるようになった。カラヤンさんは「良い演奏には3つのA{Atmosphere(環境)Acoustic(音響)Artist(演じる者)}が必要だ」と言ったが、「琵琶湖ホール」にはもうひとつのA=Audience(聴衆)が必要である。
ホールは何を作り、何を提案していくのかが使命で、建物ができて始まるものだ。「琵琶湖ホール」は、芸術監督に若杉ひろしさん、そのほか、演劇・商業企画のプロデューサーと、物によって持つことのできない知恵を外部からお借りし、さらに少人数だが声楽アンサンブルを抱え、すばらしい技術スタッフがいて、日本最高のクルーだと言われている。滋賀県の観客は大変すばらしいが、それは経済的・文化的な豊かさが背景にある。東京から来られた図書館長の前川つねおさんは、「文化とは需要があって供給するものではない。供給があって初めて、需要が創造されるものである」と言われたが、文化だけでなく食もそうで、いいものをどんどんっていけば、食う能力は誰にでもある。やる方は大変だが、見るほうはすぐに上達してすばらしい観客になる。

<公共ホールの役割>
 公共ホールは税金を遣って運営される。「琵琶湖ホール」では平成12年度18億円使っており、事業収入は3億円弱、一般財源から10数億円出ている。これだけのお金を使って、民間でできないもの、営業ベースでできないものをするのが、公共ホールの役割である。海外の歌劇場は税金や企業メセナで運営されているが、日本ではそういった芸術を支える仕組みが確立されていないことが問題点である。

<公共ホールの目指すところ>
芸術は生きる力になる。若い人たちにいいものを見てもらうためには税金の力が必要である。そして、今の若い人たちには精神力を鍛える、心を支えるもの「芸術」が必要である。芸術はまた年寄りにも生きる力になる。ホールの近くに住み、観劇を楽しみに日々を元気に送ることができる、これらは時代の変化でもある。芸術はまた、ソフト産業の先端技術面を担うものである。産業を担っている人、先端技術を担っている人にこそ、世界の現在に触れてほしい。

<地域の活性化>
 瀬田は元々畑であったところに龍谷大学の誘致に成功した。立命館大学も移転し、文化教育ゾーンに変化したことで民間も次々と出店し、集積による活性化がおこった。ここ「琵琶湖ホール」の近くでも、パルコの客層が今までの若者中心から年配までに広がり、琵琶湖ホテルも移築され、ますますの集積を目指している。

<滋賀県の付加価値を高める>
 古くから「京都の台所」といわれ、少し前までは「近畿のチベット」とも言われていたが、今では都市文化装置の集積により付加価値が高まり、人々の意識は変化した。この集積により消えたものがあることも事実で、すべて良いとはいえないが、少なくとも現代を生きるわれわれに必要なものができたことは良いといえる。 シドニーにオペラハウスがあるように、滋賀県の観光パンフレットには「琵琶湖ホール」が必ず載っているように、「ホール」の催事が、歳時記のように地元の生活に盛り込まれていくように、プログラムを心がけている。


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