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開催レポート 京都研究会2002

「くにづくり」は京都から
第4回 京都研究会
『公衆無線インターネットで広げる京都のしつらえ空間 − 新産業創造を目指して』

 

今井 賢一氏(スタンフォード日本センター理事)


 それぞれの地域に特色あるクラスターが起こっている。最近の傾向として、「クリエイティブ・クラス」という社会の制度や仕事のやり方を新しく作り出していこうとする階層が出てきている。地域がもっと競争し、そこに住みたいことが原動力となり、そういう階層の人々が集まって新しい産業が生まれてくるだろう。そして、我々の命と暮らしの向上のために技術をコンバージェンス(収束)させていくことが、これからの課題であろう。そういう背景の中で、時間に注目してビジネスチャンスを捉えていくことが大事である。

新川 達郎氏 (SCCJ副代表理事・同志社大学大学院総合政策科学研究所研究科教授)

今までの京都研究会では、「情報技術」「コミュニティ・べンチャー」「NPO」という3つのキーワードについて議論をしてきた。新しいコミュニティがこれからの地域の暮らしの中でどう変わっていくか、これからも発達するであろう知識のネットワークの中でみあこネットがどう広がるか、研究会の中で知恵を多く出し合いたい。

『e社会の未来展望-デジタルの1000年が始まる』
中村 伊知哉氏(スタンフォード日本センター研究部門所長)

今はアナログからデジタルに転換する端境期にある。ITで暮らしがどう変わっていくかは一つの大きなテーマである。エージェントソフトやバーチャルな秘書ができてきた時、どう私たちは生きるかである。また、メガ、高速などと言っているが、蛍が命をかけて子孫を残す1ビットの光のように、一滴の気持ちが技術以前に問われている気がする。日本ではゲームや携帯メール、カラオケなどが流行っている。国民がデジタルで力を上げていることを今後どう生かしていくかが課題でもある。
インターネットは広場であり、コミュニティとなっている。そこに皆がアイデアや考えを持ち寄ることによって、さらに新しい価値を生み出していく。
デジタルな社会や表現はデジタルな世代、つまり子世代が作っていく。ただ気にかかることは若者のモチベーションである。日本は今後どういう道を歩みたいか、考える時期に来たのではないか。このデジタルな世の中を、元気を出して一緒に作っていきたいと思う。

セッション2 『情報技術による新しいライフスタイル提案』
コーディネータ:今川 拓郎氏(大阪大学大学院国際公共政策研究科助教授)

セッション2のテーマは新しいライフスタイルの提案である。新しいライフスタイルには、SOHO、NPO、エンパワーメントなどの良い面、出会い系サイトや携帯電話による集団カンニングなどの悪い面があり、いろいろな意味合いを持つ。

「地域主権 地方から情報化の取り組み―インフラからアプリまで」
辰巳 治之氏(札幌医科大学・医学部教授)

解剖学とはバラバラに分けてミクロからマクロまで考え統合化し、物事を理解していく知的生産活動のテクニックである。情報は少ないと正確な判断ができないし、必要な時に必要な情報が出てこなければ、それは全く役立たない。再利用できない、知っていても使えない情報は何の価値も持たない。また、タイムリーに情報の価値は変わっていく。
北海道の場合、国際電話と同じような料金体系になっていて、インターネットでの地域医療をといってもお金がかかってできない。ゆえにこれからは、最初から何でもできる湯にメディアのIP配線を引いてこなければならないだろう。
携帯電話でのメール等により、インターネットは一般社会に溶け込んできた。しかし、医療系に関するインターネットはあまり進んではいない。オープンすぎて怖いからである。そこで、MDX研究会を作り、安全かつ高速な通信を目指して研究を行ってきた。いつでも自由に使えるような安定したインフラを作っておかないと、これからの高度情報化社会はないと思う。
インフラが整い、コンテンツがかなり充実してきたが、この後にくるのはコンピタンスである。情報のエネルギーによって、社会、医学を変えていきたいと思っている。

「これからのキラーアプリケーションは真のインターネット電話だ」
藤川 賢治氏(京都大学大学院情報学研究科知能情報応用論分野助手)

インターネットは巨大なデータ通信ネットワークで、基本技術は1970年ころに確立している。インターネットの真のキラーアプリケーションは無料電話である。キラーアプリケーションとは仕組みなどを強力に推し進めるものである。
インターネットはPeer-to-Peerで、末端同士が好き勝手に通信するモデルである。それ
をIP電話でするとどうなるか。世界的標準のIP電話プロトコルではサーバーを経由した呼設定、個制御を行っているが、IP電話とはIPアドレス同士でやり取りすればいいものである。そういった発想でシンプルにつくったのが、NOTASIP(=単純以外の何ものでもないインターネット電話)である。そして、真のインターネット電話のためにはブロードバンドが必要であるし、固定グローバルIPアドレスがあるかないかではシステム構築の簡単さが全然違っている。
インターネット電話の利便性をアップさせるにはサーバーがあるほうがいい。また、既存電話網との相互接続のためにはインターネット電話ゲートウェイが必要である。
今後の展望として、専用端末(携帯電話型端末)の開発ができればなと考えているところである。

「みあこネットで広げるアクセスホットラインサービス」
高木 治夫氏(SCCJ代表理事)

SCCJでは公衆インターネットを作り、知恵の集積をし、人と人とのコラボレーションで新しい時代を創造しようとしている。みあこネットは一人ひとりが通信事業者であり、基地局を立てる人自身が通信事業者となる。
多くの方々の協力により、みあこネットは少しずつ進歩してきている。設定の利便性をはかり、LANカードやPDAで使えたり、CAN構想を持ち込むなど、今後は様々な実験やサービスを行っていく予定である。
みあこネットでは今、携帯テレビ付端末を利用しての歩行ガイド実験をしている。視覚障害者とITは大変重要な関係にある。インターネットの発展によって、視覚障害者もリアルタイムに情報を取り、発信することが可能になった。また、全く見えないものが見えるようになってきた。そこをITでガイドヘルプできれば、視覚障害者や観光客のガイド支援ができる。大事なことは使いやすい道具であり、視覚障害者を含めて自立と就労支援がどう実現できるかである。

セッション3 『持続可能なコミュニティを追求する』
コーディネータ : 新川達郎氏(同志社大学大学院総合政策科学研究科教授)

私たちが今から作り上げようとするデジタルなコミュニティ、新しい情報空間がどのように構成できるか、それを制度的に支える条件があるのか、クリエイティブな新しいコミュニティを作り上げていく手掛りについて伺っていきたい。

「ブロードバンド時代の制度設計」
池田 信夫氏(経済産業研究所上席研究員)

韓国ではブロードバンドの普及率が50%を超えている。ただブロードバンド産業ができていないし、経済全体の牽引役には至っていない。アメリカが遅れているのは電話会社が財産権を主張し、回線を開放してくれなかったという資本主義が原因である。
基本的に大事なことは、皆が自由にやれる環境がないことである。電波の場合、もともとボトルネックがない。それは行政が作り出してきたものである。
アメリカの電波法は1912年にできた。それを商業利用に使おうと1927年に改正されたのが今の電波法である。今までは原則は規制であり、例外は自由であったが、これからは原則を自由にする。今までの周波数による、アナログ時代の仕組みを根底から変えたことをFCCは認めたが、問題はある。我々は「多重な多様化ができるのであれば、免許をやめるべきである」と公聴会で激しく主張してきたが、両論併記となってしまった。
最終的に私が申し上げたいのは、とにかく免許制度は全部やめていくべきであることだ。オーバーレイ利用も重要なことである。これは一つのチャンネルを異なる無線機で使う仕組みである。使いたい時だけ使えるようにというのが、我々の主張である。

「企業とネットコミュニティの新しい関係」
佐々木 裕一氏(鰍mTTデータ経営研究所チーフコンサルタント)

「新しい自由に利用できるソフトウェアを作りたい」というビジョンと、「知的好奇心の満足によるソフトウェア品質の向上」というコミュニティの原理で、「Linux」コミュニティが91年に始まった。そして、これを利用してビジネスをと、99年には「RedHat」や「VALinux」という会社がナスダックに出てきた。
 インテルなどはCPUの部品製造が非常に強く、NEC、富士通、IBM等と取引をしている。それがプラットフォームである。つまり、その会社と取引きしなければできないような存在である。また、プラットフォームにはクローズとオープンのものがある。
アットコスメというサイトがある。月に30万人が訪れる化粧品の口コミサイトであり、その情報はとても信頼のおける媒体として地位を築いている。エンドユーザーの口コミの維持には一件あたり300円かかるが、複数のメーカーがお金を出し、自主的に支えている。そのサポートが次世代の消費者とのコミュニケーション上では必要なのである。
 みあこネットは今、価値が蓄積していく段階である。実際に価値が溜まった時には、どういう人が、どういう利用法で使っているかを明確にしていかなければならない。それがコスト上、有利になることによって説得力がでてくる。

「これからのビジネスを考える」
国領 二郎氏(慶応義塾大学ビジネス・スクール)

IT戦略での課題であるが、今後はITの利活用、わが国の産業再生、国際競争力の強化、国際的な視点を重視すべきである。また、情報家電などの日本の強みを生かした我が国独自の戦略を検討する必要がある。そして、安全を守ることと、個人がイキイキと能力を発揮する社会を作り上げることの折り合いをどのようにつけていくかは大きな課題である。  
地域による地域自身の情報化を考え、中央はそれをやりやすくする状態をいかに作るかという視点が大事なのではないかと思う。また、使う側が持っているものを高付加価値の製品に添加していけるかは今後のテーマである。すなわち、情報家電、コンテンツ流通のプラットフォームができることで、日本の文化は世界に紹介されていく。それらを作った人たちがお金を得ていけるような仕組みを設け、自由と安全の両立の仕組みを作っていきたいと考えている。
ITのインフラ状況を作ったので、今後はそれを経済の活性化につなげ、環境を守りながら経済成長を達成して豊かにしていきたい。
また、ブロードバンドになるとネット上でやれることが増えてくるので、在宅勤務、在宅学習をテーマにして、バリアフリーで活力ある高齢社会を作ることを考えている。これからは情報によって付加価値を高めてより豊かな仕組みや、工業社会が作ってきた矛盾を解決すればするほど得するようなものを作っていきたいと思っている。

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多数のご参加、ありがとうございました。